中国籍の方による我が国の土地購入に関する現状と誤解について
はじめに
近年、我が国において、外国籍の方による土地取得に関する関心が高まっており、特に中国籍の方々による土地購入について、様々な憶測や誤解、さらには不安感が生じている状況が見受けられます。
具体的には、以下のような言説が一部において流布されております。
「中国籍の方が北海道の土地を大量に取得し、中国による入植や侵略が進行している」
「地方都市に中国人が多数居住し、中国文化が広がりつつある」
「中国人が治安を悪化させている」
また、こうした言説の中には、陰謀論や不確かな情報に基づき、中国籍の方に対する不当な誹謗中傷や差別的言動へつながるものも見受けられます。
そこで本資料では、中国籍の方による我が国の土地取得の現状について、法制度及び統計データを踏まえた事実関係を整理するとともに、これらの誤解がどのように生じているのかを概観し、冷静な理解促進に資することを目的といたします。
- 背景にある要因
(1) 政治的対立構造
日中両国は、歴史的経緯や領土問題(尖閣諸島をめぐる問題等)を背景として、国際的に緊張関係が報じられる機会が多い状況にあります。
このような政治的対立構造がメディア等を通じて強調されることにより、一般市民の間に不信感や警戒心が醸成され、中国に関連する話題について過敏な反応を引き起こしている側面が指摘されます。
(2) 経済力の変化への不安
中国の急速な経済成長及び我が国の相対的な経済規模の停滞もまた、いわゆる「中国脅威論」を生じさせる要因となっています。
北海道における土地取得事例等が「経済的侵略」といった過度に刺激的な表現で語られることもあり、事実以上に不安が増幅される傾向が見られます。
なお、日本の不動産登記法上は、外国籍の方による土地取得は法的に認められており、現行法に違反するものではありません。しかしながら、日本は島国であり、歴史的に移民や多文化受容の経験が限定的であったことから、外国人一般に対する心理的な距離感や警戒心が比較的強い傾向があるとの指摘もあります。
(3) 二分割思考
さらに、一部では「外国籍の方が土地を取得することにより、日本人の機会が奪われる」といったゼロサム的な思考が見られます。
しかし、実際には外国資本の流入が地域経済の活性化につながる場合もあり、一概に否定的に捉えるべきではない側面もあります。
- 法制度及び統計上の実態
(1) 我が国の法制度
我が国の不動産登記制度においては、外国籍の個人・法人による土地所有は適法に認められており、外国籍の方が土地を取得したからといって、その土地が外国の主権下に置かれることは一切ありません。
また、新たに外国籍の方が所有者となったとしても、当該土地が外国の領土になることは法的にあり得ず、「外国人所有=外国領土化」という主張には法的根拠が存在しません。
(2) 外国人土地所有に関する統計状況
全国的状況
国土交通省の「国土の利用状況調査」(令和5年〔2023年〕公表)によれば、外国籍の個人・法人が所有する土地面積は、全国ベースで約0.9%に留まっています。
なお、国籍別の内訳については現行調査では公表されておらず、特定の国籍(例えば中国籍)に限った公式統計は存在しない点に留意が必要です。
北海道の状況
北海道に限ると、外国籍の方による土地所有面積は約1.5%であり、国内平均よりやや高い水準となっています。
北海道庁が実施した独自の調査(令和4年〔2022年〕)によれば、道内における外国人土地所有者の推計構成は、中国籍(香港・マカオ含む)が約40%、次いで米国約20%、オーストラリア約10%とされています。
ただし、これらの数値はあくまで推計であり、調査対象も全件を網羅したものではないため、概数として捉える必要があります。
また、北海道以外の都市部(東京都心部・大阪市内等)では、米国やシンガポール等のファンドによる商業地取得が活発であり、中国資本以外による大規模投資も多数存在しています。
- 政府による規制措置及び取組
令和5年(2023年)4月には、重要施設周辺や国境離島等における土地取引の適正化を目的として、「重要土地等調査法に基づく政令(重要土地等調査令)」が施行されました。
これにより、外国籍の方による一定地域の土地取得については、届出・調査が義務付けられ、国家安全保障上の観点から必要な管理が行われています。
さらに、北海道を含む一部自治体においては、独自に外国人土地取得状況の調査を実施するなど、透明性の向上を図る取組が進められています。
- 誤解や偏見の発生メカニズムとその対応
(1) 誤情報の拡散
近年のSNSや一部メディア報道においては、事実の一部を過度に強調し、「中国による浸透」「侵略が進行中」といった刺激的な表現がなされるケースが散見されます。
これにより、法的・統計的事実との乖離が生じ、不安や恐怖感を過剰に煽る状況が発生しています。
また、いわゆる誤解が起こっている原因の特徴として、
前提の誤認(例:外国人所有=領土化)
事実の誇張(例:一部地域の購入を全国的現象と誤認)
結論の飛躍(例:経済活動を軍事的侵略と短絡する)
といった構造が見られます。
(2) 必要な対応
こうした誤解や偏見の払拭には、
法制度及び統計データに基づく冷静な議論
多文化共生の意義や地域経済活性化の側面を含めた総合的理解
外国資本に関する制度の一層の透明化
などが重要です。
また、教育現場や地域社会において、多文化共生教育を推進し、国籍や文化に由来する偏見を低減する取組も求められます。
おわりに
日本を含め、世界各国はグローバル化の進展に伴い、人や資本の国境を越えた移動がますます活発化する時代を迎えています。
このような中、外国籍の方による我が国土地取得についても、客観的な事実に基づき冷静に受け止め、必要な制度整備を進めつつ、互いの文化を尊重し共存する社会の形成を目指すことが重要です。
参考:
https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/totikensangyo_const_tk1_000057.html(国土交通省)
https://www.mlit.go.jp/common/001171455.pdf(一般財団法人日本不動産研究所)
